​代表理事あいさつ

 

日本経験サンプリング法協会 代表理事 / 東洋大学社会学部 教授

博士(社会心理学)

​尾崎由佳 

​わたしが初めて経験サンプリング法(ESM)を用いた研究に取り組んだのは、2014年のことでした。
当時、身近なところに誰ひとりとして経験者がおらず、文献から得られる情報も非常に限られており、右も左もわからないところからのスタートでした。これでは前に進めない…と行き詰った私は、思い切った行動に出ました。ESMを用いた心理学研究の権威であり、トップクラスの学術誌に論文[1,2]を発表し続けているW. ホフマン先生(現・ルール大学教授)に「助けてください!」とメールを書いたのです。幸運なことに、このメールがきっかけとなり、わたしたちは国際共同研究を始めることになりました。この研究プロジェクトから大変に多くの知識とスキルを学び、その成果を国際誌に発表[3,4]することもできました。この過程でご助力いただいたのはホフマン先生ばかりではなく、国内外の研究者の方々から貴重な情報やアドバイスをいただいたことが、研究の大きな推進力となりました。
この経験から、わたしが学んだことが2つあります。
ひとつは、ESMが非常に魅力的な研究手法であるということです。わたしたち人間は、日々の生活の「流れ」の中で生きています。ですから、自然な日常環境において、生活の流れをできるかぎり止めないようにしながら、いま人々がどのような出来事を経験しているのか、何を感じているのか、どう考えているのか…etc. といったデータを集めていくことが重要です。これがまさにライフログ=生活の記録として多くのことを語ってくれるのです。このように人々の生活の「流れ」をデータ化するというESMの手法は、心理学などのアカデミックな研究のみならず、臨床・医療の現場や、学校教育、ビジネスといった幅広い領域において、おおいに役立つものであると言えるでしょう。
もうひとつは、ESMを行うためには、豊かな知識・便利なツール・協力する仲間が欠かせないということです。逆に言うと、これらのうちどれか1つだけが欠けたとしても、ESMの実施は(不可能とは言いませんが)困難の多い道のりとなるでしょう。しかし残念ながら、これまで、日本国内においてこれらを手に入れようとするのは、並大抵のことではありませんでした。わたし自身も、苦労を重ねてきたところです。
これら3つの要素(知識・ツール・仲間)に、だれでも、かんたんにアクセスできる場をつくりたい。その想いから、2020年11月に一般社団法人日本経験サンプリング法協会(JESMA)を設立するに至りました。
JESMAは、以下を提供するための活動を進めています。
①豊かな知識:セミナーの開催やブログを通じて、ESMにかかわる様々な情報を随時、発信します。
②便利なツール:ESMのために開発されたソフトウェア exkuma の販売を行います。その他にも、データ収集や分析に役立つツールの紹介を行います。
③協力する仲間:コミュニティーの構築と交流促進をはかります。ESMに関心のある方々がさまざまな立場から参加し、情報や意見の交換をする場づくりを行います。
この活動を通じて、経験サンプリング法がこれまで以上に活用されるようになり、研究活動のために、そして社会のために役立つ機会が増えていくことを願います。
2021年2月、ホームページ公開に寄せて
 
JESMA代表理事
尾崎 由佳
References:
[1] Hofmann, W., Baumeister, R. F., Förster, G., & Vohs, K. D. (2012). Everyday temptations: An experience sampling study of desire, conflict, and self-control. Journal of Personality and Social Psychology, 102(6), 1318–1335. https://doi.org/10.1037/a0026545
[2] Hofmann, W., Wisneski, D. C., Brandt, M. J., & Skitka, L. J. (2014). Morality in everyday life. Science, 345(6202), 1340–1343. https://doi.org/10.1126/science.1251560
[3] Ozaki, Y., Goto, T., Kobayashi, M., & Hofmann, W. (2017). Counteractive control over temptations: Promoting resistance through enhanced perception of conflict and goal value. Self and Identity, 8868(January), 1–21. https://doi.org/10.1080/15298868.2016.1269668
[4] Murphy, S. L., Ozaki, Y., Friese, M. & Hofmann, W. (2021). Testing Buddha: Is Acute Desire Associated with Lower Momentary Happiness? Journal of Happiness Studies. https://doi.org/10.1007/s10902-021-00362-9